丸元さんが私のシステム料理の教祖であれば、小林さんはさしづめ実生活に即した知恵がいっぱいのおばあちゃん(失礼>小林さん)といえるのではないだろうか? 小林さんは丸元さんのように栄養学云々は声高く唱えない。まず美味しく食べよう、時間も有効に使おう、楽しく作ろう、といった考え方が根本にあるようだ。その為に従来の料理の作り方にこだわらない自由な発想で料理を研究されている。ですから彼女の肩書きは「料理研究家」となっているのです。
小林さんはあまりにも有名なので私が云々する必要はないのですが、小林さんが書かれた本は60冊前後はあるのです。さすがに私も丸元さんのように全部集めよう、という気にはなりません。その多数の本の中で私が今もっとも愛用している本、掲載されているレシピを全て作ってみようと思う本があって、それは丸元さんの「家庭料理」と「新・家庭料理」に次ぐ3冊目の本なのです。それは下表に上げた本のNo.1「お弁当づくりハッと驚く秘訣集」です。
小林さんの本を私が買った順番でゆくと8冊のうちの6冊目になります。それまでは写真主体の本で私にとってはその他大勢の料理書と同じ取り扱いだった(失礼)のですが、たまたま5月(1996年)の出張の折り大阪の書店で買い求めたこの本に強くひかれてしまいました。
この本はイラストがパラパラって入ってはいますが、基本的に文字だけの本です。写真主体の料理の本は見ていて楽しいのですが、いま一つ作ってみようという気持ちになれないものがおおいのです。その理由はこの本を読んで、また丸元さんの本を読んで分かりました。著者の思い入れがガンガン繰り広げられているレシピだなとわかる書き方がなされていると、私も作ってみようという気持ちにそそられる訳です。写真ではその思いが数行のコメントに凝縮しているからわかりにくい。けど文章主体の本だと写真がない分どうしても文章でそのレシピ、料理法のすばらしさを説かないといけない。その気持ちが伝わってくる迫力あるレシピほど、見た目は多分素晴らしいものではないであろうとわかるのだが、味わってみたいと思わせる、なんかそんな気持ちが伝わってくるのはやはりある程度の文章が必要な訳です。
私はレシピと書いてしまいましたが、正確にはその「コツをマスターしたい」と書くべきでしょう。小林さんはこの本の中で次のように述べています。
「この本では、おべんとうを作るなら、こういうことをまず知ってほしい、こうするととってもらくですよ、といった、もっと根源的なことに力を入れました。....(途中省略)....この本を読んで、"ああそうだったのか"と、おべんとう作りのごく基本的なことがしっかりわかっていただけたら、別のおべんとうの本からも、上手に自分流にとり入れられるようになるでしょう。」(文献No.1 P245〜P246から引用)
この「根源的なもの」なものは人によっては「おばあちゃんの知恵」「料理のKnow How」などいろいろ言い方があるとは思うのですが、いずれにせよ教わらないとなかなかわからない些末なことだが、知っているとこれは強力なアイテムになるものです。料理を研究できる時間がある程度確保できるのであれば、むしろ人の教えよりも自分なりの力で独自の領域を開拓したくなるのが私の性分なのですが、有限の時間を使って、今育ちつつある子供達においしい食事をタイムリーに食べさせようと思ったら、やはり人の教えに素直にしたがうべし、ということになります。
この本に出会ってから、2〜3回に一回はこの本に従った方法でお弁当作りにトライしていて、今まで失敗したことがありません。システム料理の丸元流の調味料、道具類達で完全武装した我がキッチン環境で、「根源的なもの」にトライしたからうまくいっているのかもしれませんが、そのことで小林さんのこの本の優れたものが失われる物では決してありません。この本は私のお弁当作りの強力な知恵袋になっています。
この本はいつも食卓の上に乗っていて、子供達もときどき覗いています。淳思(高2)は「これ作って」とリクエストがでます。私は「そんなら自分で作れ」とやり返しますが、たくさんのしおりやアンダーラインで本がクタクタになっています。私の本の使い方は汚して使いまくるのに抵抗がないから、汚れた本ほど愛読書になっているのです。だって料理の本だったら台所において飛び散る油やこぼした醤油で汚れていないってのは不自然ではありません? 写真がない昔風の本ですが、小林さんの本の中でお弁当に関してはこの本をお勧めします。
願わくばこの本を飛び越えられる日がくることを祈りつつ。