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料理の本棚

湯木 貞一

吉兆味ばなし (1)〜(4)

暮しの手帖社

一気に読むのがもったいなくて、ちょっとずつ読み進めている本です。
2003/07/26(Sat)
吉兆味ばなし
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この本を買ったのはいつだっただろうか? 多分1992〜1993年のころではなかっただろうか。毎日の料理もそこそこできるようになり、レパートリーも増えた頃だったと記憶している。レシピを見れば、なんとなく味も想像できるようになった頃だ。 当時そのような自分が何故このような本を購入したのか記憶にない。

写真はなく、素朴な素材中心の挿絵がパラパラとある程度。挿絵は著者がかかれたのか、インタビューアーの花森安治さんが書いたのかは、明記されていないのでわからない。料理本では当たり前の素材と分量から構成されているレシピなんぞはまったくといっていい程登場しない。料理本というジャンルではなく散文といった趣の本だ。

本の体裁も化粧ケース入りハードカバーで、その表紙の色は黒色。あとがきと奥付の間にちょこっとあったメモ程度の文章では以下のように書かれている。

 この吉兆味ばなしは、花森安治が生前に企画したものでございます。
...表紙が黒色のため、製本が思うにまかせず、工夫を重ねておりますうちに花森は他界してしまいました。
 近頃、やっと、黒い色の印刷の製本ができるようになり、このたび出版の運びになりました。...
さすがに、こだわりの花森安治さんである。

私は小さい頃、母が定期購読していた主婦の友とか暮らしの手帳をよく見ていた。特に暮らしの手帳が好きで、その中でも製品テストは特に好きであった。そのテスト結果が、デザインのみでなく使う側にたった切り口に重きをおいた結論に、今思えば共感していたのだろう。その時の編集者が花森安治さんであって、有名な人だとは大分後になってわかったことだった。子供心に花森さんの編集ポリシーが伝わり、そのテイストが好きで暮らしの手帳を読み続けたのだろう...とおもいたい。

その花森さんが著者の湯木貞一さんにインタビューし、テープにとる。その話を原稿に仕上げ、湯木さんが手をいれて暮らしの手帳に連載したものをまとめたのがこの本だ。

この本の見出しは、料理を作る目的にはほとんど役にたたない。料理を作る目的であれば、索引から逆引きするしかない。しかし素材別に見てみると、一般的な素材の話題が極端に少ない。例えば、一巻の索引で、キャベツを見てみると、「キャベツの早漬 106」と一項目のみ。ならば人参は..「なし」。よく見ると「京にんじん 271」という項がある。ピーマンなんてのも当然のように「なし」。

つまり、冷蔵庫の残り物から「さて何を作ろうか」という目的には、あまり役にはたちそうもない種類の本なのである。たとえ素材が該当するものでもできあがりのイメージ写真はない、レシピはない、どの程度の時間がかかるのかわからない、カロリーとかそんな栄養学的な情報は当然ない、とないないづくしなのだ。

よって、この本はKnow How本ではない。料理に全人生をかけて来た湯木さんの料理に関するエッセーとしてみるべきだろう。水上勉の土を喰う日々(わが精進十二ヶ月)に似ているかもしれない。

そんな本だから、何か美味しい料理を直ぐにつくって見たいと思って読むべきではない。普段の私の読書パターンは一気呵成に読んでしまうタイプなのだが、この本に限っては、全て読んでいない。四巻全巻所有しているが、全て拾い読みにとどめている。時々思い出しては、その時の季節や料理に関係するような個所をめくって数ページ読んでやめている。一気に読むのがもったいないのである。長い時間をかけて読み終えたいと思わせる料理の心意気に関する本なのである。一部引用してみよう。

高野どうふをもどす ...こう書くと、なんだか、たいそうなようですが、なれてしまって、高野どうふをもどすのは、こういうものだ、とおぼえてしまった、じつはなんでないものです。
 なんでも、はじめは、やったことがないから、大そうな気がするものです。それを、まあこんな事までしなくてはならないのか、と思ったら、もうあと厭になるだけで、これでは損です。一ぺんやったら、二度目はずっとらくになります。三度目はもう手に入って、こんなことは、あたりまえのことになって、はじめ、どうしてあんなにたいそうに思ったのか、おかしくなります。 (吉兆味ばなし 一 p.38〜p.40から引用)
料理のことを言っているのだが、料理以外のものにも通用してしまう。こんな味わい深い含蓄に富んだ話を一気に読むのはもったいないではないか。高野どうふを戻すように何度もじっくりと読み、本を通しての対話で一話一話の話を、心にじっくりと戻すようなそんな読み方がいいのではないだろうか。そして読むたびに、何かしら料理を作ってみたくなるのである。

だからこそ、料理への熱がかなり冷めている今、この本の書評を書くのが適切なのかもしれない。

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